大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成9年(ワ)7190号 判決 1998年3月18日

原告

破産者有限会社甲野写真製版破産管財人

塩路広海

右訴訟代理人弁護士

奥田聡子

被告

株式会社大信

右代表者代表取締役

西原伸起

右訴訟代理人支配人

岩村健治

被告

株式会社ディー・エヌ・ピー・メディアクリエイト関西

右代表者代表取締役

村中豊

主文

一  原告と被告株式会社大信との間において、原告が被告株式会社ディー・エヌ・ピー・メディアクリエイト関西に対し、四五万四七五五円の請負代金債権を有することをを確認する。

二  被告株式会社ディー・エヌ・ピー・メディアクリエイト関西は、原告に対し、四五万四七五五円及びこれに対する平成九年八月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告と被告株式会大信との間において、原告が訴外クロスクリエイトこと中村俊一に対し、八六万三二〇九円の請負代金債権を有することを確認する。

四  訴訟費用は、被告らの負担とする。

五  この判決は、二項に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  被告株式会社大信

(一) 原告の請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は、原告の負担とする。

2  被告株式会社ディー・エヌ・ピー・メディアクリエイト関西

(一) 原告の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は、原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1(一)  訴外破産者有限会社甲野写真製版(以下「破産会社」という。)は、被告株式会社ディー・エヌ・ピー・メディアクリエイト関西(以下「被告関西」という。)との間で、平成九年四月二六日から同年五月二五日までの間、印刷加工を請負った。その間の印刷加工代金額は、四五万四七五五円である。

(二)  破産会社は、訴外クロスクリエイトこと中村俊一(以下「中村」という。)との間で、平成九年四月二一日から同年五月二〇日までの間、印刷加工を請負った。その間の印刷加工代金額は、八六万三二〇九円である。

2(一)  破産会社は、平成九年六月二日、同年五月末日を支払期日とする手形を不渡りとして事実上倒産し、同年六月三日、大阪地方裁判所に自己破産の申立てをした。

(二)  破産会社は、平成九年六月一八日午後一時三〇分、大阪地方裁判所において破産宣告を受け、原告は、右同日、右破産事件(大阪地方裁判所平成九年(フ)第一九一七号)において破産管財人に選任された。

3  破産会社と被告株式会社大信(以下「被告大信」という。)は、左記の契約を締結した。

破産会社は、被告大信に対し、平成六年三月二九日、三〇〇万円を限度として、破産会社が訴外大日本印刷株式会社、同藤谷プロセス、中村及び被告関西に対して有する各種写真製版及び印刷の請負代金債権を含む一切の債権を以下の約定の下に譲渡する(以下「本件債権譲渡」という。)。

(一) 右債権譲渡の通知は、破産会社において予め作成した債権譲渡通知書を被告大信に預け、破産会社に以下の各号の事由に一つでも該当する場合には、破産会社は、右通知書を発送すること及びその発送に関する一切の権限を被告大信に委任する。

(1) 支払停止、破産、和議開始、会社更生手続開始、会社整理開始、特別清算開始の申立てがあったとき

(2) 手形、小切手の不渡処分を受けたとき

(3) 債務の一部でも履行を遅滞したとき

(4) 前各号のほか、債権保全を必要とする相当の事由が生じたとき

(二) 破産会社の被告大信に対する債務は、(一)の通知発送時において確定し、右債権譲渡の効力は、(一)の事由発生時に直ちに生じるものとする。

4(一)  被告大信は、3(一)に基づき、被告関西に対し、平成九年六月一六日付け内容証明郵便にて、破産会社の被告関西に対する前記債権の譲渡通知の発送手続を了し、そのころ、右通知は被告関西に到達した。

(二)  被告大信は、3(一)に基づき、中村に対し、平成九年六月三日付け内容証明郵便にて、破産会社の中村に対する前記債権の譲渡通知の発送手続を了し、そのころ、右通知は中村に到達した。

5(一)(1) しかし、本件債権譲渡は、破産会社が真意に基づいてしたものではなく、全く無効なものである。

すなわち、破産会社の代表取締役であった訴外甲野信夫こと乙野信夫は、平成六年三月ころ、被告大信から一五〇万円を借り入れるに際し、被告大信のいわれるままに白紙の書類等に破産会社の記名、押印を要求され、これを行ったものであって、何ら真意に基づいてしたものではない。

(2) また、仮に本件債権譲渡が有効であったとしても、右は、債権譲渡の予約にすぎず、債権譲渡の本契約ではない。そもそも、本件債権譲渡の際、破産会社と被告大信との間で交わされた契約書第一条には債権譲渡の「予約」である旨が明記されており、このことからも本件債権譲渡が予約であることは明らかである。

仮にこれが債権譲渡の予約ではなく本契約だとしても、右譲渡は被告大信が破産会社に対して有する債権のうち三〇〇万円を限度としてのみ効力を有すると解されるが、例えば、譲渡の対象となる債権の総額が三〇〇万円を超過する場合を考えると、右譲渡の効力が生ずる範囲を確定するためには、被告大信による譲渡対象債権の確定等何らかの特定行為が不可欠であるところ、本件においては、このような特定はされていないから、債権譲渡としての効果も発生していないといわざるを得ない。

(二)(1) 仮にそうでないとしても、本件債権譲渡は、平成六年三月二九日にされたものであり、右債権譲渡の各通知は、いずれも破産会社の支払停止後、右破産会社の支払停止の事実を知った被告大信によってされたものであって、かつ、平成六年三月二九日の契約時から一五日が経過した後にされたものであるから、原告は、本訴において、破産法七四条一項に基づき、右債権譲渡通知の対抗要件を否認する。

(2) 仮に、(1)が認められないとしても、本件債権譲渡は、被告大信と破産会社との間において発生する債務(被告大信が破産会社に対し平成六年三月二九日に貸し付けた三〇〇万円の返還債務及び被告大信と破産会社との間の手形貸付取引、金銭消費貸借取引等により継続して発生する一切の債務)を担保するためにされたものであって、その実質は、担保権設定契約(集合債権譲渡(担保))にほかならないところ、被告大信は、前記のとおり、右担保権設定時から一五日経過後にはじめて前記のとおりの各譲渡通知をし、かつ、被告大信は右各通知時に破産会社の支払停止の事実を知っていたものであるから、原告は、本訴において、破産法七四条一項に基づき、右集合債権譲渡(担保)の対抗要件を否認する。

(3)(4) <省略>

6  原告は、被告関西に対し、平成九年八月一四日、本件訴状にて1(一)の支払を催告した。

7  よって、原告は、被告大信との間において、原告が被告関西に対し四五万四七五五円の前記請負代金債権及び中村に対し八六万三二〇九円の前記請負代金債権をそれぞれ有することの確認を求めるとともに、被告関西に対し、請負代金債権に基づき、四五万五七五五円及びこれに対する催告の日の翌日である平成九年八月一五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  被告大信

(一) 請求原因1ないし4は、すべて認める。

(二)(1)ア 同5(一)(1)は、否認する。

イ 同5(一)(2)は、争う。

本件債権譲渡に関する契約書第三条には、「債権譲渡契約は前条の事由発生時に、直ちに効力を生ずる」旨の規定が存在し、被告大信の何らの行為なくして債権譲渡の効力が発生するものとされていること、また、予約完結権の行使等につき何ら具体的な定めがないことからすれば、本件債権譲渡は、停止条件付きの本契約であって予約でないことは明らかである。

(2)ア 同5(二)(1)記載の事実は認めるが、これが対抗要件否認の対象になるとの主張は争う。

本件債権譲渡は、前記のとおり、債権譲渡の予約ではなく、停止条件付き債権譲渡の本契約と解すべきであるところ、停止条件付き債権譲渡の場合、破産法七四条一項にいう「一五日」の起算点は、権利移転等の原因たる行為の日ではなく、契約当事者間において権利移転等の効力を生じた日であると解すべきであるので、これに反する原告の右主張が失当であることは明らかである。

イ 同5(二)(2)記載の事実は認めるが、これが対抗要件否認の対象になるとの主張は争う。

本件債権譲渡が担保権の実質を有するとしても、その法律的性質はあくまで停止条件付き債権譲渡にすぎないと解される以上、破産法七四条一項の「一五日」の起算点が権利移転等の原因たる行為の日ではなく、契約当事者間において権利移転等の効力を生じた日(停止条件成就時)であることはアと同様であり、これに反する原告の右主張は失当である。

ウ、エ <省略>

2  被告関西<省略>

第三  証拠<省略>

理由

一  請求原因1(一)、同2、同3及び同4(一)はいずれも当事者間に争いがなく、同1(二)及び同4(二)は、被告大信との間では争いがなく、被告関西との関係では、弁論の全趣旨により認められる。同6は、当裁判所に顕著である。

二  そこで、まず、同5(二)(2)につき判断する。

1  破産法七四条一項は、対抗要件具備行為が権利の設定、移転又は変更の日から一五日を経過した後にされたものである場合には、破産管財人においてこれを否認することができる旨規定しているが、右「一五日」の期間は、権利移転等の原因たる行為がされた日ではなく、契約当事者間における権利移転等の効力を生じた日から起算すべきものである(最判昭四八年四月六日民集二七巻三号四八三頁参照)。

ところで、本件債権譲渡は、前記当事者間に争いのない請求原因3の事実にかんがみるとき、当事者間の通常の意思解釈として、単なる停止条件付き債権譲渡ではなく、被告大信と破産会社との間における手形貸付取引等により発生する一切の債務を担保することを目的とする集合債権譲渡(担保)というべきであって、その意味において、右は、債権譲渡とは異別の非典型担保として、担保権設定契約の一類型に当たると認めるのが相当である。

したがって、被告大信は、破産会社に対し、本件債権譲渡の時点において、限度額(極度額)三〇〇万円の担保枠の設定を受けることにより担保権を取得し、右範囲内において優先弁済権(その実質は、請求原因3(一)の支払停止等の事由が発生した場合に、約定に係る全譲渡対象債権から優先的に取立て等により自己の債権に充当するなどしたうえ、残額を清算するというものである。)を有するというべきである。

ところで、右担保権については、約定の所定事由発生前に、その公示方法が果して存在するのかという疑問を生ずる余地があるが、譲渡対象債権の債務者が特定されている本件に関する限り、担保権設定時点において包括的な通知を各債務者に対し発することにより右担保権についての対抗要件が具備されたものと解すべきであるので、右担保権についての公示方法自体が存在しないとはいえない。もっとも、これに対しては、右のような包括的通知をもって対抗要件と認めることは、右包括的通知を発すること自体が債務者に対し担保権設定者の信用不安を表明する結果となり現実的でないとの批判はあり得ようが、この点は将来右が正当な担保権であるとの認識が取引界に広まることにより解消されるべき問題であり、むしろ、本件のように、破産直前に至るまで三年以上もの間何らの公示方法なくして事実上優先効を認める結果となることの方が当事者間の公平を欠き、妥当でないので、この点は右担保権の成立を否定する理由とはならない。

そうすると、担保権設定契約としての性質を有する本件債権譲渡においては、平成六年三月二九日の契約時点で既に当事者間において担保権が現実に発生していると解される以上、右時点において権利設定の効力が生じたというべきところ、前記一の事実及び弁論の全趣旨によれば、被告大信は、被告関西及び中村に対し、右担保権の対抗要件たりうべき包括的通知を発することなく、平成九年六月に至ってはじめて右両名に対し個別的(対抗要件というべき)通知をし、これにより対抗要件を具備するに至ったことが認められ、右事実によれば、右個別的通知は、権利設定の効力が生じた日から一五日を経過してからの対抗要件の具備というべきである。

2  以上によれば、本件において、被告大信の集合債権譲渡(担保)の対抗要件具備行為は、本件債権譲渡の時点から一五日が経過した後にされたものであるから、破産法七四条一項により否認の対象となるものというべきである。

三  よって、原告の請求は、いずれも理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法六一条、六五条一項本文、仮執行宣言につき、同法二五九条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官中路義彦 裁判官谷口安史 裁判官仙波啓孝)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例